でも・・・◇◆ 「支持率ゼロ」国民民主党がそっぽを向かれる理由はこれだった ◆◇
田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)
国民民主党の代表選は、9月4日午後に投開票が行われ、玉木雄一郎共同代表が津村啓介元内閣府政務官を破って再選を果たした。 テレビや新聞などでは、告示から今まで、それなりに話題になっていたようだ。
だが、告示後に行ったFNN・産経新聞の最新の世論調査によれば、同党の支持率は0・7%(前回より0・1ポイント減少)と「支持率0%政党」のままである。 野党第1党の立憲民主党も低下傾向を続けているので、野党全体の低調が問題かもしれない。
それにしても、国民民主党の支持率の0%台は異様でもある。 衆参両議員の数で総議員の1割を超えるのに、この低調ぶりである。 その原因は、立憲民主党にも共通するが、やはり「民主党なるもの」を引きずっていることは間違いない。 過去の民主党政権による経済政策や対外安全保障、震災・原発問題の対応に関して、国民の多数が民主党政権時代に暗いマイナスのイメージを抱いているのだろう。
民主党政権といえば、「コンクリートから人へ」に代表される経済観が挙げられる。 これはより正確にいえば、経済成長よりも分配重視の政策であった。 積極的な財政拡大や金融緩和政策により経済規模を安定的に拡大するのではなく、まずは公共事業の拡大などから社会保障などの拡充に振り向ける政策だった。
確かに社会保障の拡充は重要だ。 だが、そのための前提となる経済成長に、民主党政権はまったく消極的だった。 言葉ではどうとでもいえる。 実際に採用した政策は、デフレを伴う経済停滞を脱却するための前提である金融緩和政策には完全に消極的だったし、財政政策には復興増税、消費増税を法案として通すことに躍起だった。
一例では、金融緩和政策については、当時の民主党政権に採用してもらうように、筆者も多くの人たちとともに「デフレ脱却国民会議」に参加して陳情活動などを行ったが、その声はまったく届かなかった。 財政政策は、いわば財務省の主導する「財政再建」という美名の増税政策だったし、金融政策も当時の日本銀行の何もしないデフレを受容した政策が続けられたのである。
そして民主党がリードし、自公も巻き込んだ消費増税法案は、今も日本経済の先行きに暗くのしかかっていて、「民主党的なるもの」の呪縛をわれわれは脱却しきれていない。 今回の代表選に候補した2人、玉木氏と津村氏はそれぞれ元財務省と元日銀の出身である。 いわば民主党政権時代の経済停滞を生み出した「二大元凶」の出身者である。
帰属していた省庁や組織の考えがそのまま本人たちに表れるとは思わない。 だが、日銀出身の津村氏は、アベノミクス以前の日銀の政策思想そのものに見える。 彼の政策提言では、「インフレ目標2%とマイナス金利の取り下げ」 「民主党政権後期の『税と社会保障の一体化』のバージョンアップ」 「消費税軽減税率の導入反対」がマクロ経済政策において強調されている。 つまり、金融緩和政策には反対だというのがその趣旨であろう。 そして消費増税については、民主党政権時代のバージョンアップとあり、具体的なことは書いていないが、さらなる消費増税の提言もありえるかもしれない。
財務省出身の玉木氏もやはり財務省的である。 かつての小泉純一郎政権による構造改革と似ているが、構造問題を強調し、特に人口減少が問題だと指摘している。 ちなみに、人口減少であってもそれは長期間に生じる現象であり、いきなり社会の購買力が減少して不況に陥るわけではない。 人口がゆるやかに減少しても、社会的な購買力が順調に伸びていけば不況は生じないからだ。
だが、玉木氏はそう考えないようだ。 「コドモミクス」と称して、子育て支援政策を打ち出している。 その趣旨はいい。 しかし民主党政権と同じように、財政拡大ではなく、既存の財政規模の中から分配の仕方を変更しようという意図がみられる。 政府の海外援助や消費税の複数税率を取りやめて1兆円を捻出するという発想がそれである。 ちなみに消費税の複数税率とは、10%引き上げ時点での軽減税率のことを指すのだろう。 つまりは消費税10%引き上げを前提にしているのである。
この点は津村氏と大差ない。 実際に、両者は消費税10%への引き上げを予定通り実施すべきだ、と記者会見で発言している。 また玉木氏は「こども国債」の発行での財源調達を主張している。 もし、新規国債を発行する形で財政規模を拡大すれば、現状の日銀における金融政策のスタンスからいえば、それは金融緩和として自然に効果を現す。 もしそのような形で「こども国債」を利用するならば筆者は賛成である。 だが、玉木氏には現状の金融政策についての積極的な評価も、それに代わるような金融政策についての具体的な見通しもない。 際立つのは、消費増税や財源調達でのゼロサム的発想である。
要するに、代表候補の彼らは現状の雇用改善などを実現した金融緩和政策に、消極的ないし否定的である。 そして財政政策のスタンスも、増税志向で緊縮スタンスが鮮明だったのである。 すなわち、津村氏が勝っても、経済政策の方針に変わりはなかっただろう。 まさに「民主党政権なるもの」の正しい継承者である。
だが、国民民主党の経済政策を批判しても、問題が終わるわけではもちろんない。 今回、支持率0%台の政党の代表選を取り上げたのは、この代表選を戦った2人の候補に、まさに日本を長期停滞に陥れてきた経済政策の見方が典型的に出ているからである。 一つは、金融緩和政策への否定的態度、もう一つは構造問題などを理由にした財政再建的な発想(消費増税、ゼロサム的発想など)である。 この二つの考え方は、与野党問わず広範囲に存在する「悪しき呪縛」だ。
国民民主党に意義があるとしたら、日本経済をダメにしてきた悪しき呪縛を最もよく体現する政党である、ということだろう。 支持率0%台は、その意味で日本国民の良識の判断であるかもしれない。 世論調査には懐疑的な筆者だが、この結果だけは納得してしまうのである。--- iRONNA(2018/09/05)より 抜粋 ---