淡路島は我が領土! なんて唄はない。◇◆ 【竹島を考える】韓国を刺激し続ける「竹島の日」の意義 下條正男・拓殖大教授 ◆◇
「北方領土の日」と「竹島の日」、毎年2月7日と22日には、決まって2つの領土問題に関連した式典が開催されている。 だが島根県が主催する「竹島の日」と、政府が定めた「北方領土の日」とでは、開催の趣旨が少し違っている。
竹島と北方領土で異なる運動の方向性
「竹島の日」は2005(平成17)年3月16日、日本政府の非難と牽制(けんせい)を押しのけ、島根県議会が成立させた「竹島の日を定める条例」に由来する。 島根県では、竹島問題の解決を目指して、「竹島の領土権確立」を求めている。 そのため島根県は同年6月、竹島問題に関する「竹島問題研究会」を発足させ、持続的に調査研究のできる体制を整えた。
一方、2月7日の「北方領土の日」は、1980(昭和55)年11月、国会において「北方領土の日」の設定を含む「北方領土問題の解決促進に関する決議」がなされ、翌年1月6日、閣議了解によって定められた。 その目的は、「北方領土問題に対する国民の関心と理解をさらに深め、全国的な北方領土返還運動の一層の推進を図るため」にあった。
「北方領土の日」の設定は、「北方領土の一括返還を実現して日ソ平和条約を締結し、両国の友好関係を真に安定した基礎の上に発展させるという政府の基本方針を支える最大の力は、一致した粘り強い国民世論の盛り上がり」が必要とされたからである。 「竹島の日」と「北方領土の日」は、領土問題という点では共通しているが、その趣旨には違いがあった。 「一致した粘り強い国民世論の盛り上がり」を目的とする「北方領土の日」と、「竹島の領土権確立」を目指す「竹島の日」とでは、最初から運動の方向性が違ったのである。
韓国側を動かすのに成功した「竹島の日」
その「竹島の日」に、日本政府が関与したのは、政府から政務官が「竹島の日」の式典に参席するようになった2013年からである。 それもその前年、韓国の李明博(イミョンバク)大統領が現職の大統領としては初めて竹島に上陸し、日本国内でも国民世論が高まっていたからである。 以後、島根県主催の「竹島の日」の式典には、毎年、日本政府から政務官が派遣されることになった。
この政務官の派遣に、敏感に反応したのが韓国側である。 韓国側では、一地方自治体の行事に、日本政府が加担し始めたと感じて危機感を持った。 しかしこれは島根県にとっても、好都合であった。 島根県の「竹島の日」の式典は、「北方領土の日」とは違って、「国民世論の盛り上がり」が目的ではなく、韓国側を動かすことを念頭においているからである。 事実、「竹島の日」の式典に中央政府から政務官が派遣され、各党を代表して国会議員の参席者が多くなれば、「静かな外交」を標榜(ひょうぼう)してきた韓国側も過剰に反応してくれるからである。 それに日本政府から派遣される政務官や国会議員の諸先生方は、国費で島根県入りするので、島根県としては経済的負担を軽減して、宣伝効果を上げることができる。
現に、韓国側からは毎年、韓国の市民団体が松江を訪れ、「竹島の日」粉砕のパフォーマンスを演じているが、これもまた島根県にとっては、ありがたい協力者である。 韓国側のこの種の行動パターンは、朴槿恵(パククネ)前大統領を政権の座から引きずり降ろした「ロウソク示威」とも類似するもので、理性的な対話よりも感情的な行動で相手を圧倒しようとの観念に由来する。
自ら竹島を紛争地としてしまった韓国
竹島は、歴史的に韓国領であった事実はない。その「竹島の日」に、「独島は韓国の領土」と大きな声を喚(わめ)き散らし、警察官らに制止されると、英雄然として振る舞う。 その種のパフォーマンスが毎年続けば、日本側にはそれが韓国側の常套(じょうとう)手段として認識され、何とか対処しなければとの思いが強くなる。 これは日本の国民意識にも変化をもたらし、「竹島の領土権確立」は国民の総意となっていく。
これは韓国側にとっては、みずから首を絞める行為である。 島根県が「竹島の日」条例を制定し、「竹島の日」の式典を開催するだけで、韓国側が過剰に反応してくれるようになった。 「竹島の日」条例が制定される以前の韓国では、「日韓の間には領土問題は存在しない」とうそぶいていた。 その韓国側の方が過激な行動に出るようになり、自ら竹島を紛争地域としてしまったからだ。 島根県が「竹島の日」の式典を開催する意義の一つがここにある。 この状況は、国民世論の喚起を目的とした「北方領土の日」の全国大会とは、大きな違いである。 「北方領土の日」の全国大会に安倍晋三首相や河野太郎外相が出席し、各界の代表らが熱弁を振るっても、モスクワから反対運動の一団が訪れることもないからだ。
重要なのは相手国に反論させ、論破すること
その違いを実感するのは、毎年、「北方領土返還要求全国大会」で報告される署名運動の結果である。 今年はさらに20万人ほどの署名が集まり、これまでに9021万1148人の方々が署名をしてくださったという。 これは国民世論の喚起という側面では大きな成果には違いないが、署名運動を熱心に行ったからといって、ロシア側に「ロウソク示威」は起こらない。 「国民世論の盛り上がり」だけでは、領土問題の解決には結び付かない。
韓国とロシアの行動様式を同列に語ることはできないが、領土問題に取り組む以上は、相手を挑発し、相手から言質を取るくらいのチャレンジ精神があってもよい。 北方領土問題では、国内世論を盛り上げ、それを外交の場に生かそうとしているが、その手法は日本には向いていない。それは韓国や中国の行動パターンと比べてみればよく分かる。 歴史的に地方分権的な社会であった日本では、藩内で一揆が起こっても、それが隣の藩に拡散し、全国に広がることはない。 しかし、中央集権的な社会が続いた韓国や中国では、秕政(ひせい)が続けば民乱が起こり、それが全国に波及する。 韓国の「ロウソク示威」や中国で起こる暴動は、その伝統を継承している。 「竹島の日」と「島根県竹島問題研究会」は、その伝統を尊重し、韓国側を持続的に刺激してきたのである。
これに対して「北方領土の日」には、「この日を中心として全国的に集会、講演会、研修会等の行事」が実施されることになっている。 だがそれは一過的なもので、島根県の活動とは似て非なるものである。 竹島問題と北方領土問題の違いは、元島民の有無だけではない。 重要なのは、相手国との間で論争を巻き起こし、相手国に反論させ、それを論破することである。 それは「外交カード」を創(つく)ることと同じ作業である。--- 産経ニュース(2019.3.8)より 抜粋 ---